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2016年09月26日

近藤誠「がんもどき理論」について

 前回、抗癌剤に関して、詳しくお話ししました。
 さて、その流れで、かの有名な(?)慶應医OBである近藤誠医師について書きたいと思います。
 この人は、もともと放射線科医なんですが、何かをきっかけに思想が変化したようで、「外科手術・化学療法・放射線療法など、全て無効であるから、癌は放置すべき。検診もいくべきでない」という独特の理論を展開しています。

 この人の主張は、いわゆる自然科学における知識の蓄積のセオリーというものから完全に逸脱していますので、基本的にはキワモノ医者(医師・医学者というより宗教の教祖)です。
 膨大な患者数を集めて行われてきた大規模臨床試験の結果を全く間違っていると決めつけ、自分が経験した範囲の症例だとか、重箱の隅をつつくレベルの小さな論文を引用して、「癌の治療は全部意味がない」とまで言いきるのですから、経験哲学の祖フランシス・ベーコンも卒倒するレベルです(笑)。
 ただ、彼の「がんもどき理論」には、少し有用に解釈できる部分もありますので、今回取り上げてみようというわけです。

 そもそも彼の「がんもどき理論」とはどういう理論なのでしょうか?
 簡単にまとめるとこういうことになります。

■いわゆる癌には、本当に悪性度の高い「癌」と、それっぽく見えるだけの「がんもどき」がある。
 悪いものは最初から悪いと決まっている。「がんもどき」はいつまでも「癌」になることはない。
 だから、早期発見したところで、本当に悪い「癌」なのならば、とっくに転移をしているから、検診による早期発見という行為は無意味である。
 同様に、早く見つかったからといって原発巣を手術で切除するということも、本当の「癌」ならば無意味である。
 また、最初から悪いと決まっているのだから、抗癌剤や放射線療法も効くわけはなく、副作用ばかりでむしろ寿命を縮め、有害なだけである。
 一般的な医者が、「早期発見したおかげで完治した」などというのは、「がんもどき」を治しただけで、ただの自己満足である。抗癌剤も含め、全ては医者と製薬会社のお金儲けのためである。その「がんもどき」は、放置しても永遠にそのままで、命を奪うことはない。医療はわざと「病気」を作り出している。


 「世の中には反論できないものは存在しない」とはよく言ったものですが、彼の理論も、科学の隙間を縫ってよく練り上げられた理論です(悪い意味で)。
 いかなる科学的事実も、直接的な証拠を得ることはできません。数多くの客観的な実験観察データから「それならば、こうに違いない」という、「最も確からしい推論」の積み重ねで成り立っているわけです。
 科学的実証は「○○である可能性が極めて高い」とは述べますが、「絶対に××でない」とまでは言えません。だからと言って、「絶対に××でないとは言えないから○○を信じない」ということをしていては、いつまでも前に進みません。ですから、ひとまず「これだけの証拠が揃っているなら、○○は正しい」ということにして、それに乗っかり、次の科学的課題解決に進みます。もちろん、後になって○○が訂正されることもありますが、それも含めて自然科学のプロセスです。
 近藤医師の行いは、「絶対に××でないとは言えないから、××が正しい。○○は全く間違っている」というぶっ飛んだ論理展開ですから、まぁ科学者としては認められないでしょう。宗教家です。


 さて、しかし、医者が宗教家になってはいけないという決まりはありませんし、宗教は「信じて、それで幸せになれるなら信じればいい(他人に迷惑をかけなければ)」ものです。
 こういう観点で考えると、実は近藤理論は、「信じたほうが幸せなケース」があります。
 それが、小林麻央さんのような「若年者における悪性度の高い癌」です。
 もともと若い人で癌になることは稀であって、若いのに癌になるということは、細胞にはよっぽど尋常じゃない変化が起きていると考えられます。
 それが、表現を変えれば「悪性度が高い」となるわけで、手術する間もなくあっという間に転移をしてしまうし、治療もただひたすら効き目が悪いということになります。

 小林麻央さんの場合、ブログを拝見すると、乳腺専門医に「大丈夫だと思う。念のため6カ月後に再診してください」と言われています。
 この判断は複数名の専門医で意見が一致しているようですから、「誤診」ということにはならないでしょう。本当にそのときの画像所見としては悪性に見えなかったのだと思います。そして、6カ月後の再診という判断も妥当でしょう。
 そして、小林麻央さん本人は再診が8カ月後になってしまった(2カ月遅く)ということなので、これが一般的に後悔の対象となるポイントかと思います。
 ただ、普通の医者感覚として、この2カ月間の違いがそこまで決定的だったのか?と言われると、ちょっと微妙なところなんですよね。8カ月後にもう相当な進行癌になってしまっていたという進行スピードならば、仮に予定通り6カ月後にみたとしても、やはりとっくに進行癌になっている可能性が高かったのではないかとも思えるのです。
 では、もし3カ月後に再診していたら?1カ月ごとのtight follow upだったら?・・・となってくるとキリがなありません。良性に見えた人でも全員1カ月おきの診察にするのか、という話になってしまいます。

 そこで、近藤理論の登場となるわけですよ。
 小林麻央さんの場合、若いのに乳房に腫瘍ができて、それは「がんもどき」ではなく、本当の「癌」だったわけです。そして、それは本当に悪い癌であるから、発見時には既に(目に見えないレベルで)転移をしていて、救いようのないものである。だから、「あのタイミングで検診にいっておけば」とか「○カ月後にみてもらっていれば」という仮説は全て無意味、簡単に言ってしまえば「運命的に最初から助からない」・・・というわけです。
 これはとても残酷な解釈のように思えるかもしれませんが、「治療のタイミングを逃したようにみえて、末期癌になってしまった」人にとっては、かえって気持ちが楽になる考え方でもあります。
 
 過去は決して変えることはできないので、過去の事実や行いは、今の自分にとって都合よく解釈したほうが幸せです。そして、「では、自分が幸せになるためには、これからは何をするか」を考えるべきです(なんか、アドラー心理学っぽくなってきた)。
 こんなところに、一応「近藤教」の活用の場があるかな・・・と思います。

 近藤教に従えば、さらに抗癌剤もやるべきではないということになるのでしょうが、これはどうですかね。
 若い以上、少なくとも一発はやってみるべきだと思います。可能性は低くても、著効する一縷の望みにかけてみる価値があります。
 もし奏功しなかった場合(そしてそれが今の小林麻央さんの状況に一致すると思うのですが)、化学療法を続けるべきかどうかは難しい判断です。それでも、前回お話ししたように、予後延長効果が数カ月期待できるかどうかであったとしても、その時間は「お別れの準備」に回すことができますから、若い患者であるからこそ、やる意義がないということにはならないでしょう。


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2016年09月24日

化学療法エトセトラ

 癌は、原発巣の手術を早い段階でできれば、かなりの治癒率が期待できるが、そうでない場合は「癌をかかえたまま、どれくらい生きられるか」の勝負になるという話まできました。
 今回は、後者のケースについて少し詳しくフォーカスを当てようと思います。

 抗癌剤は昔に比べるものすごく進歩しました。
 癌の治療で難しいのは、悪い細胞も正常な細胞も、いずれも人間のその人の細胞であることは共通しているということです。つまり、「悪い細胞だけ選択的に叩く」ということが非常に難しく、全世界の医学研究者はこぞってそこに知恵を絞っているわけです。
 その成果もあって、近年は選択性の高い抗癌剤が続々と登場してきています。

 癌の中には抗癌剤がよく効くタイプのものがあります。これに性能のよい抗癌剤がヒットすると、結構な進行癌であっても、「綺麗さっぱり癌が消えてしまった」というケースがみられることがあります。
 これは、医学的には「CR(complete response)」と呼びます。ただ、それは基本的に稀で幸運なケースです(宝くじに当たるようなものだと思うほうがいいです)。

 では、普通の抗癌剤の効き方の実態はどういったものなのでしょうか。
 それは、「PR」「SD」「PD」という言葉で表されます。
 PRは、partial responseの略です。「癌が完全になくなった」とまではいかないが、「小さくなった。退縮した」ということです。これは当然、抗癌剤としては有効と考えられます。この抗癌剤を続けていれば、うまくいけばCRにもなるかもしれません。
 SDは、stable diseaseの略です。「癌の大きさが変わらない」という意味です。これは無効という判断になるのでしょうか?違います。これは効果があると考えます。つまり、癌というのは放っておけばどんどん大きくなっていくものなので、大きさが変わらないなら、大きくなるのを防いでいる、すなわち効いていると考えるのです。
 PDは、progressive diseaseの略です。抗癌剤を使っているのに大きくなってしまっているという意味ですから、もちろん有効性がないと判断します。

 そして、化学療法のプロセスを(あえて非常に)簡単にデフォルメ化すると、
■「ある癌に対してある化学療法をスタート」→PR→SD→PD→「化学療法を変更」→PR→SD→PD・・・
というようなサイクルになります。

 つまり、抗癌剤を使うと,ある程度は癌に効いてPRとなります。そのままCRに持ち込むことを期待して続けるわけですが、それは基本的に稀で、どこかでSDになってしまうというのが現実です(PRではなくて最初からSDのこともあります)。SDならまだその薬は続けますが、いよいよPD、すなわち癌が耐性を獲得して抗癌剤が無効となったら、化学療法の薬の組み合わせ(レジメンと言います)を変えます。
 こうして、現状「効く」と言われている化学療法レジメンのパターンを順次出していきます。そのパターンが出尽くし、それでもPDとなったら・・・それが「万策尽きた(治癒を目指すという観点では)」ときであるということです。


 皆が、抗癌剤に期待するものはズバリ「CR」であるわけです。もちろん医学もそれを目指していますが、2016年現在ではそれはなかなか難しく、多くの場合、患者の理解と医者の意識にギャップがみられる部分です。
 手術ができないステージの場合、現実的にはPR,SD,PDの状態が組み合わさりながら、「癌をかかえたままどこまで生きられるか」の治療になるということが実情なのです。
 よく患者さんは、「抗癌剤でどれくらい治るんですか!?(CRを期待して)」と尋ねてくるのですが、誤解を与えないように、かつ希望を捨てさせないように正しく答えるのは、なかなかの高等技術を要します。


 さて、現実の抗癌剤は、そう簡単にCRに持ち込めるものではないという一面的な事実だけをとらえて、「抗癌剤なんて効かない!(SDで「効く」なんていうのはバカげている!)」「患者は医者のモルモットにされている!」と騒ぎ立てる、しょうもない人がいます。
 冒頭で述べた通り、抗癌剤はものすごく進歩しています。まだまだ不十分であっても、CRに持ち込める確率は昔に比べれば随分高くなりました。そして、なんと言っても、「癌をかかえたまま」の予後という点では飛躍的に状況が改善しています。
 つまり、昔なら数カ月で亡くなっていたところが1年に伸びたし、1年で死んでいたところが1年半とか2年に伸びた・・・ということです(わかりやすく言うなら)。
 そして副作用もかなり軽くなりましたし、緩和治療も進歩しましたから、その生きている時間も、「辛くて辛くてしょうがない。これならさっさと死んだ方がマシだ」というかつての癌の末期像からはかなり解放されました。


 理想的なCRを期待する患者からすると、「治らなきゃ意味ねえんだよ!」と嘆きたくなるかもしれませんが、以下の考え方をしてもらいたいと思います。
医学が理想の抗癌剤を発見するまでのプロセスの途中にある。
 昔の性能の悪い抗癌剤治療を受けた患者さん達は、本当に大変だったと思います。しかし、それらの経験やデータを踏まえて、次世代のよりよい薬剤が開発されることも確かなのです。ですから、「パーフェクトな完成品」でなければ使う価値がないというのは、少々もったいない考え方です。
 パソコンや携帯電話だって、ちょっと前までは今に比べたらめちゃくちゃ性能悪かったですよね?でも、その時代にリアルタイムで生きていた人達は、「その当時のベストのもの」ということで、大いに有効活用していたと思います。
 抗癌剤もそういうものだととらえるべきです。そして、「今、ベストのもの」なりの活躍はしてくれます。

引き分けに持ち込めればよい。
 癌は、進行癌では、依然として命を奪う恐い病気ですが、上記の通り、CRに持ち込めなくてもその予後は大幅に延長しました。人によっては、化学療法レジメンを手を変え品を変えしながら、「癌を体にかかえたまま」5年以上生きる人もいます。
 癌というのはもともと比較的高齢者に多い病気ですから、その予後延長効果によって、「十分生きた」と言えるタイミングを迎えられる可能性が大いにあります。
 例えば70歳のときに男性が癌と診断されて、化学療法諸々を駆使してうまいこと5年間生きることができ、最後に75歳で癌を死因として亡くなったとします。男性の平均寿命はだいたいそれくらいですから、この場合「不幸にも癌で早く亡くなった」というよりも「寿命を全うした」ととらえることができます。
 もちろん、小林麻央さんのように若い人の癌だと、この「引き分けに持ち込む」ことも非常に困難なので、若い人の癌は気の毒なのですが・・・

お別れの時間の確保ができる。
 人間の理想の死に方はまぎれもなく「老衰」ですが、実は癌は、案外それに次ぐNo.2の「良い死に方である」という意見もあります。
 ある程度「死ぬ時期」が予測されるということは、死を恐れる人間にとっては、あまりに残酷で辛い期間かもしれませんが、裏を返せば「死ぬ準備」ができるということでもあるのです。 
 例えば、脳卒中だったら、本人の自意識のないまま身体に障害をかかえて生きることになり、多大な介護コストが必要になるなど、別の大変さがあります。事故死なら、お別れをする時間もありません。
 癌は、死ぬとわかってから実際に死ぬまでの間に、家族と思い出作りなどのお別れをしたり、身辺整理をしたりするなど、手を打つ猶予があります。これらの点で、他の病死よりも幸せだとも考えられるのです。

 そして、その「手を打つ時間的猶予」は、数カ月でも数年でも長ければ、より多くのことができるわけなので、意義があります。
 例えば、小林麻央さんのケースだったら、今実際にやられているようにブログで癌の啓発活動や生きた印を残す作業をすることができます。家族との関係で言えば、元気がある間に旅行にいったり、その気があれば、今後の子供の成長に合わせた手紙やビデオメッセージを残したりということができます。
 この間の治療は、単なる「CRに持ち込めなかっただけの、死ぬまでの時間稼ぎ」ではなく、本人や家族にとっては貴重な時間だと言えるのです。


 そんなわけで、化学療法というものに対する正しい捉え方が、少しでもわかってもらえたなら幸いです。
 つづきはまた今度💨


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2016年09月20日

癌治療の三本柱

 小林麻央さんのブログで本人自身から、現在「肺、骨に転移あり」との情報が発せられました。これにて、stageWであることが確定したので、やはり予後に関しては前回書いた通りの予測から外れません(心苦しいですが・・・)。

 さて、前回は癌の診断についての考え方を書きましたので、今度は治療についてです。
 癌の治療戦略には大きく分けて以下の3つがあります。もちろん、ペインクリニックだったり、精神医学的サポートだったり、その他、有効性が確定していない療法(免疫療法など)もあるわけですが、とりあえず2016年現在で有効性が確立されているのはこの3つです。
(1)手術
(2)放射線
(3)化学療法(抗癌剤)

 診断によって、病気が癌であることが確定し、そしてステージ(どくらい進んでいるのか)を分類しました。そのステージによって、上記の治療を組み合わせることになります。
 診断の考え方がきちんと理解できていれば、その理解は難しくありません。
 いくつかの典型的ケースで考えてみましょう(平易な言葉を用います)。

■原発巣が十分に小さく、画像上転移も見当たらない
 これは、(1)で治療します。普通に考えれば、原発巣を取ってしまえば治るはずだという単純な発想です。
 いわゆる早期癌というのはこれです。

■画像上遠隔転移は見当たらないが、原発巣がかなり大きい
 ここからが進行癌です。
 画像上転移がなさそうなので、(1)は基本的にすることになります。しかし、前回述べた通り、「画像で転移が見えないからといって、転移していないとは限らない」という重要な原則があります。細胞1個とか数個のレベルで、転移をしているかもしれません。原発巣が大きい場合、その確率は当然高まります。
 ですから、(1)の手術に加えて、(2)や(3)を組み合わせます。

 放射線は、原発事故の問題でクローズアップされた通り、浴びると健康に悪影響があります。細胞にダメージを与えるからです。
 でも、これは上手に使えば、癌細胞にダメージを与えることにも使えるということです。具体的には、癌細胞がありそうなところに高線量の放射線を当てて、健康なところにはあまり当たらないように設定をすれば、効率的に癌を殺せるわけです。
 (1)手術をした後も、もともと病変があった周囲などには、目に見えないレベルで癌細胞が入り込んでいたかもしれません。また、近くのリンパ節など、局所的な転移が取り切れていないかもしれません(なるべく手術で取りきるように心がけるのですが)。
 だから、原発巣のあった場所の周囲に重点的に放射線を当てたりします。

 (3)の化学療法、すなわち薬は、全身に効かせることができます。全身に薬が回れば、原発巣よりも遥か遠くに転移していた場合、そしてそれが目に見えない細胞レベルのものであったとしても、癌細胞を殺すことができます。
 ですから、手術した後に、抗癌剤を使ったりするのは、そういう目的なのです。

■画像上に遠隔転移がみられる場合
 原発巣から遠く離れた別の臓器に転移、すなわち遠隔転移がある場合、基本的には(3)の化学療法が主な治療手段になります。
 ここまで読んできた方なら、「主な治療手段になる」というより、「それしかない」ということがお分かりいただけると思います。
 画像でみえる遠隔転移がある以上、癌細胞は細胞レベルで全身に散らばっているので、その見える部分だけをモグラ叩きのように手術していったところで、すぐにまた別のところに転移病変が出てくるので、意味がないのです。それになんといったって手術はお手軽に何に対してもできるものではありません。

 なお、姑息的に手術や放射線を行うことはあります。
 例えば、原発巣の大きな病変が圧迫して痛みや障害を出しているときは、治すためではなく、症状緩和のために腫瘍を切除する意味があります。
 同様に、骨に転移がある場合、やはり骨折や強い痛みの原因になりますから、そこに放射線を当てることに意味があります。
 でも、これらはあくまで「治癒」を目的とはしていません。


 近年は、ひと昔、ふた昔前に比べれば、癌の治癒率は大幅に向上してきました。
 しかし、それは「治せる治療」が見つかったということではありません。どうして、治癒率が向上しているかというと、以下のような点にまとめられます。
●早期発見ができるようになった
→健診や人間ドックの普及、診断技術(画像検査や胃カメラ,大腸カメラ)などの向上により、「原発巣が十分に小さく、画像上転移も見当たらない」という段階で見つかる確率が増えてきた。
●治療法自体がよりよく改良されてきた。
→手術や放射線療法は、あまり変わらないですが(といっても進歩していますよ)、化学療法(抗癌剤)に関しては、目覚ましく進歩を遂げています。昔に比べれば、副作用はずいぶん少なくて、効き目も強い薬が多く登場してきています。
 ですが、それでも、「この薬を使えば、癌が全部消えてしまう」というような夢の薬はまだ存在しません。
 

 癌の種類によっては、他にも治療パターンの組み合わせがあります。
 例えば、局所転移がかなりあっても、放射線療法や化学療法がよく効くタイプの癌があるので、ひとまず放射線療法や化学療法を先行してやります。それで本当によく効いて、癌病変が手術できるくらいまで小さくなったら、手術をする・・・こんなこともあるのです。
 おそらく小林麻央さんの場合は、診断された時点で転移があったので、最初から手術はできず、「可能だとしても、先に放射線治療・化学療法を先行させて、それがよく効けば手術をする」という戦略だったのだろうと思います(海老蔵さんの会見の時点でそう思いました)。
 しかし、彼の会見時点で、診断されてから結構時間が経っていました(1年8ヶ月)。最終的な手術を狙っていたとしても、1年8ヶ月も術前療法を先行させたのに手術ができないということは、「よく効かなかった(手術に移行できるほどには病変が退縮しなかった)」ということが推察されました。
 ですから、ここまでの情報で、ステージWの可能性は結構高かったですし、仮に一つ前のステージVだったとしても、抗癌剤の効きが悪いことがもうわかっているので、完全なる治癒は正直望めない状態にあったということがわかります。
 そこにきて、冒頭に述べた情報公開ですから、「やっぱりなぁ」という印象です(T_T)

 よくテレビなどで「癌は治る病気になった」とセンセーショナルに伝えられたりしますが、どういう場合に「治る」のかということを正しく理解しておく必要があります
 「早期発見できて、原発巣が十分に小さく、転移の可能性が低い」ときには、手術を軸に、かなりの高確率(90%以上)で完治が期待できます。
 そして、「原発巣がちょいと大きく、転移の可能性がまずまずある」という場合にも、手術に追加する化学療法等の進歩のおかげで、それなりの確率(70%とか)で完治が期待できます。
 逆に言うと、それら以外は、「癌が体から消える(完治)」は原則的に望めません。「癌を体にかかえたまま、どれだけ生きられるか」の勝負になります。それでも抗癌剤の進歩によって、昔よりはその余命はずいぶん延びたんですけどね。


 続きはまた今度💨

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2016年09月19日

小林麻央さんの乳癌について

 本人がブログを書き始めたことで、第三者の勝手な憶測でない経緯がわかってきましたので、少しこの話題を皮切りに、癌について書きたいと思います。

 まぁ、あまり私としても言及したい内容ではないのですが、今わかる情報から客観的に判断すると、彼女の生命予後(命の見通しのことです)は、正直結構厳しいものにならざるを得ないです。
 具体的な数字はもちろん私が認識できる範囲ではないですが、おそらく主治医は数カ月とか1年単位で考えているのではないかと推測します。

 私は私生活でも、非医師の友人からは「小林麻央さんって、ぶっちゃけどうなの」とよく尋ねられます。
 こういう会話の中でやりとりをしていると、やっぱり医療系じゃない人の癌の知識は、全く不十分であると痛感します。テレビとかでなんとなくのイメージはあるけれども、やっぱり皆さんきちんとはわかっていないんですよね💧
 そういうのを補完するのが、我々の仕事でもあるわけです。そんなわけで、記事にしようと思いました。


 まず、癌という病気の概念を平易な言葉でおさらいします。
(1)おかしな細胞ができる。
(2)おかしな細胞は、無秩序に増える性質をもっている。だから、最初は1個の細胞であったが、どんどん塊として大きくなる。細胞分裂は、×2の指数関数で増えるので、そのスピードは非常に速い。
(3)おかしな細胞は、その場に留まらず、体液(血液やリンパ液)の流れに乗って、遠くに飛んでいく性質がある。身体のどこか別の場所に1個の癌細胞が定着したら、そこでも(2)と同じように増え始める。これが「転移」である。
(4)最終的に、身体のあちこちで増殖した癌によって、いろいろな臓器が障害を受け、死に至る。


 さて、「癌かもしれない」という疑いが生じたとき、種々の検査を駆使して、診断を行います。
 癌の治療というのはいずれも高いリスクを伴うものばかりですから、「たぶん癌だよ」くらいの適当な手応えで患者に「治療しましょう」と提案するなんてことはできません(「たぶん風邪だよ」とは全く次元が異なる話です)。ですから「間違いなく癌であろう」と言えるまで、できる限りの検査によって推察を突き詰めます👊
 診断の観点には2つあります。
(A)そもそも癌であるのかどうか
(B)癌だとしたら、どのくらい進んでいるのか(ステージ分類)

 まず、(A)の手段ですが、超音波やCT,MRIといった画像検査が手段として挙げられます。身体を傷つけずに撮影できますから、何かしらの画像検査は必ずやります。
 これらだけでも「癌かどうか」は、かなり絞り込むことができるのですが、全く完璧ではありません💦「99%決まり」という典型的な画像所見であればまだしも、「微妙・・・」ということは高頻度にあります。なぜなら、これらの画像検査というのは、実物そのものを見ているわけではなく、あくまで影絵のような間接的な情報でしかないからです。

 そこで、より確実な方法として「生検」という方法があります。これは怪しい腫瘍に針を刺して一部細胞を取ってきて、顕微鏡で観察するというものです。
 もちろん、技術的に空振りして腫瘍を外してしまい、周囲の正常な組織を観察してしまえば「正常です」という誤診をしてしまう可能性は0%でありません。しかし、生検をする医師としては、それだけは絶対に避けようと最大限の努力を払います(生検も1個だけではなく、何個か取ったりします)から、見逃す確率はかなり低いと想定されます(というか、そこは医者を信じるしかないです)。
 ですから、一般的には生検は確定診断として最も信頼性が高いものです。

 そして、(A)の行程によって、「癌であろう」となったら、次は(B)ステージを考えます(ほぼAと同時のこともありますが)。
 そこで、また、特に重要な観点2つに分かれます。
(ア)局所的にどれくらい進んでいるか
(イ)転移があるのか

 まず、(ア)ですが、もちろん腫瘍の近くに重要な臓器があったらそれを潰したりしてダメージが来ますから、そういう所見がないかどうかを見ます。でも、それ以上に大事なのは、一般的には「腫瘍が大きければ大きいほど、転移もしている可能性が高い」という法則が信じられているからです。
 ですから、「大きい(ないしは深い)」ということは、転移をしている可能性が高くなってくるということなのです。
 (イ)はその名の通り、診断のところで述べたいくつかの画像検査でもって、転移があるかどうかをみます。
 ここで注意点が2つあります。
 まず1つは、「原発巣(おおもとの癌のこと)が小さくても転移が起きる」というケースもあるということです。基本的には「原発巣が大きい」ほど、発病してからの時間が長いということですから、転移が起きている可能性も高いわけですが、もう早い段階からサッサと転移をしてしまう癌もあります。当然、こういう癌はやっかいなものです。
 2つ目は、「画像検査の転移巣の診断は、やはり完璧ではない」ということです。CTやMRIで「これは転移病変です」と言えるには、その画像に映ってくるくらいには、転移した癌細胞がその行き先である程度増殖して、病変の塊が大きくなっていないといけません
 転移した癌細胞「1個」とか「数個」とかそんなものを、「影絵」で検出することはできないのです。近年はPETなど、比較的新しい画像技術でかなり細かい転移も検出できるようになってきていますが、やはり細胞レベルで検出するには、「細胞はあまりにも小さすぎる」のです。

 そんなわけで、画像で明らかに転移病変があるなら「転移あり」と診断できますが、画像でないからと言って「転移がない」とは、病気が癌である限り、いかなる場合にも断言することはできません。
 あくまで「画像で見出される範囲の転移病変はない」という表現が正しいです。
 ただ、「わからない」「断言できない」を連発しているだけでは何も始まりませんから、そこは最終的に決断をする必要があります。
 つまり、画像上で転移病変がなくても、原発巣が「大きい(深い)」なら、転移をしている可能性があるので、それを想定した治療をする。画像上に転移病変がなくて、原発巣も十分に「小さい(浅い)」なら、原発巣だけの治療をすればよい。
 ・・・おおまかに言うと、こういう形で治療方針が決定されるわけです。


 続きは、また今度💨


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2016年03月12日

総合かぜ薬と解熱鎮痛薬

 脇坂とかいう逮捕されたタレント女医について時事ネタ記事でも書こうかと思ったのですが、書く対象としての価値すら見い出せないので、普通に医学・医療記事を更新します(笑)

 前回、解熱鎮痛薬として代表的な「NSAID」と「アセトアミノフェン」を紹介しました。
 ここで、総合感冒薬PLの成分を復習してみましょう。解熱鎮痛薬の成分としては、「サリチル酸」と「アセトアミノフェン」が入っていましたね💡
 サリチル酸は、NSAIDに分類される薬の中では最も古典的なものです。「アスピリン」と言ってもいいです(厳密には違いますが、まぁだいたい一緒です)。これは、本来は物質名ではなくて商品名なのですが、こっちの呼称のほうがピンと来る人も多いかもしれませんね(「ファミコン」みたいなものです)。
 サリチル酸は、解熱鎮痛作用はさほど強くありません。新世代のNSAID(ロキソニンやイブ)の方がその点は改良されて効き目が強くなっています👊

 アセトアミノフェンは、新世代のNSAIDより強いということはさすがにないですが、ちゃんと十分な用量を使えば、同等くらいの効き目があります✋

 両者とも古典的な薬ですが、他の薬との飲み合わせが問題になることがほとんどなく、比較的気軽に出しやすいということで、PLに配合されているわけですね✨


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